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2014-10

ポジティブ病の国、アメリカ


2010年に書いたブログなのですが、今大切なことだと思ったので、再掲します。

 「ニッケル・アンド・ダイムド」でアメリカの下流社会の現実を描く、というタブー破りをした著者の最新刊はなんと今度はポジティブ・シンキングのタブーに挑戦したものです。
 とても魅力的なタイトルです。これで、何でもかんでも楽観的にニコニコしていれば幸せになれるし、そうしない人は間違っていると考えている、いわゆる「ポジティブ・シンカー」を一刀両断にしてくれるかと期待したところ、まあまあ結構やってくれています。例えば、こんなことが書かれています。

・なぜポジティブ・シンキングが必要かというと、抑圧しなければならないネガティブな思考があるからで、恐ろしい程の不安がその原動力となっている。
・ポジティブ・シンキングは独立戦争や平和のために戦うような実存的勇気とは大きく異なる。
・楽観主義やポジティブ・シンキングが訓練によって習得できるのならば、失敗したときに言い訳できない。容赦なく個人の責任を強調されるということだ。

 確かにその通りと思いますが、これは何にも考えないで楽観的であればただいいのだ、というポジティブ・シンキングのことであり、実際にはもっと行動が伴ったものや、ネガティブとのバランスを考慮したものもあると思います。少なくとも私の考えるポジティブ心理学は行動とネガ・ポジのバランスを重視したものです。
 しかし、この著者はそのポジティブ心理学にも噛みついています。主にセリグマン博士が楽観主義を万能のように語っていることと、彼の研究結果が統計の意味も分からない、ポジティブ・シンキングで儲けている連中のマーケティングの科学的証拠のように使われていることが気に入らないようです。
それは私も全く同感です。メラビアンの法則を誤解したまま、コミュニケーションにおいて言語そのものの影響力は7パーセントしかない、なんて本に書いている人がたくさんいるように、セリグマン博士の研究をチラ見して、それをポジティブ・シンキングが誰をも幸せにする証明のように扱っている輩もいるのでしょう。あきれますが。
しかし、ポジティブ心理学はセリグマン博士一人のものではありません。ピーターソン博士はネガティブとのバランスを重視しているようですし、ドナルド・クリフトンも楽観性そのものは才能の一つと考え、そこから行動を通して生まれる卓越性に焦点を置いていました。
ですから、ポジティブ心理学についての指摘はある意味とても鋭いと思うのですが、若干各論になっているような気がします。
しかし「ポジティブ心理学の真に保守的なところは、現実に固執し、目の前にある不平等も、権力の乱用を見過ごしにする点である。」というのはとてもシビれる文章ですね。確かに「ポジティブ」を標榜している人達は社会にある不正や邪悪なもの、暗いものに目を向けたがらない、という傾向はあるような気がします。彼らは、世の中に貧乏な人がたくさんいて、貧富の格差はさらに広がっている、という点には目を瞑り、幸せにお金儲けをしましょう、とポジティブな面にだけ目を向けたりしている。また、先日北朝鮮に一人で旅行してきて、あちらの人民の「普通さ」を痛感して帰ってきた凄い人がいたのですが、その人の話がいかに称賛に値するかを話すと、嫌な顔をする人が多かったのです。それは興味がないというよりも「北朝鮮」という、自分のネガティブ感情を揺さぶるような話題に目を向けたくないように思えました。すぐ近所に実際にある現実の国なのに。
しかし、これらの批判は、「行動を重視するポジティブ心理学」にはあまり当てはまらないような気がします。薄っぺらいポジティブ・シンキングの批判としては素晴らしいと思いますが。「行動を重視するポジティブ心理学」ではそこにある現実を注視し、行われるべき行動を積極的に実行するものだと思うのです。それが北朝鮮に関わることでも、貧しい人、不幸な人に関わることでも、あるいは自分の「悲しみ」を湧き起こすものだとしても。そもそも、単純な「ポジティブ・シンキング」だったら、私も個人的には何の興味も持たなかったでしょう。
それから、本書ではポジティブ・シンキングをキリスト教、カルヴァン主義などと関連付けている点がユニークです。
その他、ポジティブ・シンキングが政治やマーケティングに利用されている点についても面白い記述がたくさんあります。
全体的に面白い本なのですが、何か抜けている感が拭えません。しかし、ポジティブ・シンキングを人に薦めたり教えたりしている人にとっては一読しておく必要があると思います。鋭い人はこのような反論をしてくるかもしれません。もっとも、著者が噛みついているような薄っぺらいポジティブ・シンカーは「反論」といネガティブなものにはどのみち目を向けないのかもしれませんが。

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