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シンガポールの英語


私は豪快に食い散らかされたテーブルを見て、ふと沈黙した。
「どうした?ワッツ・ウロング?」
 私は顔を上げることができなかった。これだけ食ったんだ、一人120ドル(10000円)は下らないだろう。そんな金はない。ていうか払いたくない。これくらいのギャラでそんなに経費を使っちまったら、観光旅行に来たようなものになってしまう。どうしよう。サイモンに腹を割っていろいろ話して盛り上がったのはよかったが、金のことをすっかり忘れていた。サイモンは結構裕福層だから、今日はオレが払うよ、とか言って全部持ってくれたりするだろうか?いや、しかし、自分より一回り若い男に持たせる訳にもいかない。
 私がいつまでもうつむいていると、サイモンは言った。
「もしかして、この食費のことを考えているのかい?」
「いや、そうじゃないけど、しかし、そうだね食費の事も考えなくちゃな」
 私は少しだけうそをついた。
「それなら、大丈夫だよ。今晩の食費はチャージできるから」
えっ、思わず私はうつむいていた顔を45度上げた。その顔にはしっぽをちぎれんばかりに振って帰宅した飼い主に寄ってくる子犬のような、期待と希望に満ちあふれていた。
「チャ、チャージできるの?Can we charge?」
「Yes, can, can!」
アメリカ人や英国人は使わないような言い回しだが、私たちは英米人が話すように話すことだけを目的にして英語を学んでいる訳ではない。コミュニケーションが目的なのだ。むしろこちらの方が分かり易いではないか。これこそグローバルな人材が使うべき英語だ。主語なんていらない!請求「デキル」と分ればそれで十分だ!
「キャン?」
「イエース、キャン、キャン」
「キャン?キャン?」
「イエス、キャン、キャン」
「キャン?キャン?キャン?」
「キャン、キャン、キャン!」
まるで、発情期の小犬がじゃれっているかのように、二人はキャンキャンといつまでも騒いでいた。そのレストランには欧米系の客もかなりいたのだが、こんな言語障害のようなアジア人を見ても、特に気にしているふうではなかった。さすがグローバル・シティ、シンガポールである。

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