Home > アーカイブ > 2011-12

2011-12

僕は君たちに武器を配りたい


 かなり良く売れているようなので、新書版の「武器としての決断思考」と合わせて読んでみました。新書の方は著者得意のディベートについての本ですが、こちらの方は、これから本格化する資本主義社会でどのように生き残るかという処世術を説いたものです。
 さすがディベートの達人、非常にロジカルで切れ味もよい仕上がりです。資本主義という、企業の株価を向上させるという明確なゴールを設定した社会での話なので、人としての成長、正義、社会的な意義、高潔さ、多様性などはどうなんだ、とも思いましたが、さすがそんな反論は想定内のようで、東大の教授の文章を引用していました。そこでは「人間力といった客観的に数値化することのできない、性格的特性を重視する傾向が広まることで、若者の無気力や諦め、社会に出ることへの不安を助長することにつながってしまう可能性があると本田教授は指摘する。そうした能力の多くは多分に生得的なもので、教育や努力を通じていかに身につけるかも解明されていない。性格の明るさやコミュニケーション力というものは、人の個性そのものである。企業が人を評価するうえで、人格や感情の深部にまで介入するのは間違いだ、と教授は指摘する」と書いています。この辺は著者の得意分野ではないようで、そこでいい加減なことを書かずに引用するあたりは、さすがガードが固い感じですね。
 しかし、客観的に数値化できる(株価のように)ものだけを基準にする事に危険を感じるのは私だけではないでしょう。サブプライムを発端に起こったリーマンショックは資本主義そのものの問題ではない、とのことですが、人間は感情の生き物であり、欲望、不正、自己中心主義などはつきもののこの世の中で客観的指標だけで全ての評価はできないと私は考えます。
 しかし著者は企業に投資しながら経営についてのアドバイスなどのサポートをするエンジェル投資家ですので、株価にこだわる姿勢を崩さないのはもっともなことだと思います。ですから、本書は基本的には投資家の視線で書かれているわけです。
 人は何故失敗するのかと聞かれて「それは成功するまで続けないからです」と答えた松下幸之助のモデルはもう通用しないと言いきり、経済が成長していない時代には優秀な人は社会貢献やNPOに進出するべきではないとか、優秀なリーダーはみなコンプレックスを抱えている、などと言いにくいことをズバズバ言っているあたりは、同意するかどうかはともかくちょっと気持ちが良かったです。
 一方、最後にこれから必要になるのはリベラルアーツであるとし、これからの資本主義社会に必要なのは「ほんとうに人間らしい関係」であると結んでいるのは、一見取ってつけたようでもありますが、実は著者の今後の方向性を示唆するものなのかもしれません。だとしたら、次の著作が楽しみですね。

Home > アーカイブ > 2011-12

Return to page top