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2010-09

春にして君を離れ


「ハゲタカ」の著者、真山仁さんが船川淳志さんとの対談の中で「アガサ・クリスティーの作品は人間の心理を非常に上手く表現している」とおっしゃっていたので、早速1冊読んでみました。
何となく選んだ1冊ですが、これには驚きました。クリスティーなんて映画の原作になるような推理エンターテインメントばかり書いているのかと思いきや、確かに真山さんの言うとおり、人間の心理を実に上手く、恐くなるほど巧みに表現しています。
本書の内容の詳細は書かずに置いておきますが、自分が見たくないネガティブなものから目をそむけ続けたポジティブ病的なおめでたい婦人の物語とも言えます。いやいや、そうまとめてしまっては面白くない。現代社会の中で多くの人が陥っているある種ブラックホールのようなものが描かれているのです。いわゆる推理小説とは違いますが、その辺の推理小説以上にスリリングな作品です。

メタ・コーチング


本書は「NLPハンドブック」の著者であり、NLPの世界でも重要人物の一人であるマイケル・ホール博士がミッシェル・デュヴァルなど卓越したコーチを徹底的にモデリングし、完成させたコーチングのフレーム・ワーク解説書です。
私もホール博士のトレーニングを受けていますが、その中でホール博士は「自分はコーチではない。モデラーだ。」と言い放っていました。つまり、自分はコーチになろうとしてスキルを磨いたわけではなく、ちょうどNLPの創始者達がミルトン・エリクソン等をモデリングして卓越したセラピーをものにしたように、ホール博士もコーチとしてのスキルを身に付けた、という訳です。トレーニングの中でホール博士はコーチングのデモを何回も披露しましたが、私からすれば彼自身かなりのレベルのコーチだと思います。しかし「私はコーチではない。」と言い放ってしまうのはカッコいいですね。
ともあれ、本書はそのモデリングの成果であり、また「自己実現モデル」「メタ・ステート・モデル」「マトリックス・モデル」「変化軸モデル」などNLPをコーチング用に進化させたようなモデルも紹介されており、NLP的なコーチングを目指す方にはとても有意義な内容になっていると思います。
何故か、ユーダイモニア マネジメントの小屋クンが巻末に推薦文を書いています。
是非、ご一読を。

ビジョナリーカンパニー3:衰退の五段階


 本作はジェームス・コリンズのベストセラー、ビジョナリーカンパニー3部作の3作目ということになっていますが、原題は「How The Mighty Fall」で、日本版で勝手に3部作仕立てにしたようです。まあ、本を売るという意味では効果的なアイディアだと思います。
 ここでは、前作までに素晴らしい組織だと謳われていた企業がどのようにして衰退していったのかを解説しています。私も以前、ほんの少しだけ古めのビジネス書を翻訳出版しようかと考えたことがあるのですが、そこで賞賛されているケースの主人公である企業の現状がさっぱり輝かしくなく、かといってケースなしでは本として成り立たないし、と考えて断念したことがあります。ホント、数年で尊敬される企業像というのは変わって行くものですよね。
 伝統的な心理学が病んだ精神に焦点を置き続ける中、90年代になってポジティブ心理学という卓越した精神・パフォーマンスに焦点を置く心理学が確立されました。そこでは、病んだ精神を分析するだけでなく、どうしたら素晴らしい結果を出せるのかを研究し始めたのですが、ビジネス書の世界でも、いくらかつての名著が賞賛した企業が倒産しようとも、そんなことには気にせずに現時点でのスター企業をもてはやし、そのケースを紹介し続けてきたようです。そんな出版トレンドの中、本書はかつて賞賛した企業がいまでは落ちぶれてしまっている、という事実を真摯に受け止め、病んだ心を紐解く精神分析のように、半ば反省を噛みしめながら書かれたのではないかと思われます。
 かつては「うちの会社にとってよいことはアメリカ合衆国にとってよいことだ」と豪語していたGMが21世紀初頭に日本のトヨタのような企業に追い抜かされ倒産の危機に追い込まれるなどとは20年前には誰も想像しなかったでしょう。いや、10年前に私はアメリカのデトロイトに住んでいましたが、当時でもGMがそこまでの状態になってしまうということは一部のエコノミストや専門家以外にとってはあり得ないことでした。
 さて、本書では、そんなかつての優良企業が衰退するパターンとして5つの段階を説明しています。順を追って紹介します。

1) 成功から生まれる傲慢
① 成功は努力の結果の一時的なものとは考えず、当然なものでそれは努力とは無関係に続くと信じる
② 主軸となるビジネス以外の脅威、冒険、機会に関心を奪われる
③ 成功を謳歌し、成功の背景に自分たちがどんな理由で、どんな条件のもとで何を成し遂げているのかを忘れてします。
④ 指導者が好奇心と学習意欲を失う
⑤ 偶然と運に恵まれたということを認めず、成功はすべて組織と指導者が優れていたからだと考える
2) 規律なき拡大路線
① 成功を収めるとさらなる成長を求める圧力が生まれ、期待の悪循環がはじまる。
② 関連しない分野への規律なき飛躍:情熱を持って取り組める、会社の価値観に一致する、その分野で世界一になれる、これら3つのどれかに当てはまらない分野に劇的に進出する。
③ 適切な人材が流出するか、適切な人材を集めるよりも早いペースで成長する。
④ コストが上昇したときに、規律を強めるのではなく価格を上げることによって売上高を増やそうとする。
⑤ 自分の仕事を責任によってではなく肩書で考えるような官僚制が規律を破壊する
⑥ 社内政治などで後継者への権力の継承がうまくいかない。
⑦ 短期的な報酬や特権や名声や成功といった個人の利害を組織の利害より優先する。
3) リスクと問題の否認
① よいデータを強調し、悪いデータを小さく見せる傾向をもつ。
② 指導者が大胆な目標を掲げ、悪いデータを無視して大きな賭けに出る。
③ あいまいなデータを良い方向に解釈し、致命的なリスクを見逃す。
④ 対話と論争が低調になり、経営が合意的か独裁的になる。
⑤ 失敗の原因を外部要因に押し付ける。
⑥ 厳しい現実に真正面から対応せず、組織再編を繰り返し、幹部は社内政治に注意を集中するようになる。
⑦ 経営幹部の地位を示すものや特権によって、権力者が傲慢になる。新しい本社ビルでは幹部は日常業務から切り離される。
4) 一発逆転策の追求
① ゲームを変える買収や新戦略への一貫性のない飛躍や劇的な技術革新などで素早く突破口を開こうとする。失敗するたびにこれを繰り返し、一貫性のない行動を繰り返す。
② カリスマ的指導者や救世主のような指導者を探す。
③ 慎重に行動をせず、慌てて条件反射的な行動をとり、パニック状態となる。
④ 「革命」や「抜本的」といった言葉で従業員の結集と動機づけを図る。
⑤ 業績回復が難しいという事実から期待を低めるのではなく、ビジョンを売り込んで過大な約束をする。
⑥ 業績回復がされてもそれは長続きしない。
⑦ 組織の基本的価値観は破壊され、従業員は不信感を持ち、ビジョンや価値観は宣伝文句にすぎないものとなる。
⑧ キャッシュフローと財務の流動化が低下し、リストラを繰り返すようになる。
5) 屈服と凡庸な企業への転落か消滅
① 経営資源が失われていき、現金に余裕がなくなる。希望は薄れ、選択肢は狭まる。

 これは読んでいくうちに怖くなっていく本です。読者の方々の勤める企業にも部分的に思い当たる節はあるのではないでしょうか?私も組織開発に関わっていますが、このような症状を見受けることがしばしばあります。また、厳しい現状におかれる企業に対してむやみにビジョンを語ることの罪深さ、というのも感じることがあります。危ない企業にとっては、今本当に必要なのは目先のキャッシュなのですよね。コンサルあがりのスター社員よりむしろ優秀な経理が欲しいのでしょう。
 しかし、これ、企業だけではなく、個人についても同じことが言えないでしょうか?個人に置き換えてこの5段階を読み返してみると、さらに怖くなりません?例えば、こんな人いません?
一度いいポジションを得たものの有頂天になり、いろいろなセミナーに参加し、ポジティブ・シンキングにとりつかれて、現実を見ようとはせず、物事のいい部分ばかり見て、会社の業績がヤバいぞ、とか社内の評価が下がっているぞ、とか他人に警告されてもそんな考えはネガティブだと馬鹿にし、そして自己啓発にだけは投資し続ける。
 恐ろしいですね。やはり企業も個人も最後は健全で現実的な方向性が大切だということですよね。成功した企業、あるいは個人がこれを理解して、調子にのらずに厳格なコントロールをし続ける、ということが持続的な成長につながるのでしょう。
現実は客観的に受け入れ、罪悪感や絶望感などのネガティブ感情も受け止め、そのなかでよりポジティブな現実を生み出すためにはどうするか、と考え行動する、そんな本質的なポジティブ心理学的視点(ポジティブ・シンキングのそれとは大きく違う)も個人や企業には必要なのだろうと思います。

ポジティブ思考では何故成功できないのか?


 最近はこのようなアンチ・ポジティブ思考関連の本を見かけるとつい手に取ってしまうのですが、それらの本の中でも本書はちょっとユニークですね。前半はかなり客観的な視点からポジティブ思考を斬っているのですが、後半、特にマインドフルネスのあたりではかなりスピリチュアルかつヒーリング的になり、著者の体験からくる「教え」に帰結させているのです。しかも後で著者のホームページをみるとそこではスピリチュアルDVDやパワーストーンなどが売られている。。。。
 しかし本書中で著者は次のようなこと(私が少しまとめました)も言っています。

 自己啓発の「教え」を説く本の著者を中心に、それに傾倒する信奉者、そしてそれを宣伝するセミナーの主催者や出版社などが形成する一団の人々は、その自己啓発に独特の周波数をもった「振り子」のようなものです。ここで問題なのは「振り子」はエネルギー体なので、その存在が維持されるためには必ず「振り子」のメンバーたちから、いつも少しずつエネルギーの供給を受けなければならないということです。それは時として労働であったり、またお金であったりします。また、そのグループと共鳴しない波長を発し始めると、その人を苛めたり迫害し始めたりします。
 自己啓発が常に悪いということではありませんが、自己啓発のプログラムを買う時は家や新車を買うときと同じくらい慎重にならなくてはならないのです。

 これはもっともなことで、こんなことを書く著者は信頼できると思いました。勿論著者自身のプログラムについてもこのアドバイスに沿って各人が判断する、ということを期待しているのでしょう。さらにポジティブ心理学、とくにセリグマン博士の理論については、ポジティブ思考のそれとは一線を画していることをよく理解されているようです。
 そう考えると、やはり面白い本だと思います。以下にその中の面白いコメントをいくつか紹介しましょう。

1) ポジティブ思考の持ち主は、よい出来事が起こった理由は、自分自身のよい性質が恒常的なもので、それがいつもの自分だからだと考えます。そしてさらに、よいことの原因を他人に求めるものではなく、自分に求めるのです。まあ、いってみればナルシストです。 これに対してネガティブ思考の持ち主は、悪い出来事が起こった理由は、自分自身の悪い性質が恒常的なもので、それがいつもの自分だからだと考えます。そしてさらに、悪いことの原因を他人に押し付けるのではなく、自分で背負ってしまうわけです。考えて見ると、ネガティブ思考の持ち主は、善人であるとも言えるでしょう。
2) 「希望なんてなくしてしまいなさい。あなたがどん底にいるとき、希望をなくすまいとがんばっていると、心身が疲れきってしまいますよ」ポール・ピアソール博士
3) ベートーヴェンがさまざまな困難の中ですばらしい作品を残すことができたのは、自分が音楽によって世界とつながり、過去と未来とつながり、人々を癒すことができるという「徳」があったからだろう。人はだれでも長所やよい才能(徳)を持っている。そのよい才能をを通じて世の中とつながることができれば幸せを感じることができるし、成功中毒に陥ることなく努力し続けることができるのではないでしょうか。
4) 「自己啓発の世界では罪悪感は幸福の敵で、罪の意識があるかぎり幸福は訪れないというが、実際はまったくその逆で、罪悪感を覚えない人には本当の幸せは訪れない」なぜなら、罪悪感は自分がどのように人生を進めるべきか、自分が他の人にどのような影響を与えているかなど、人生についてより深く考えさせてくれるからです。
5) 好きな仕事を探せ、と言うけれど、現在食についている人たちの多くは、その仕事が好きで選んだのではなく、将来性、安定感、給料のよさ、企業の知名度などから選んでいる。そのような選択ができたのは、たまたま縁があったから、あるいは、その職場が採用してくれたから、という人も少なくない。また、そのように自分の好きなことを仕事にできなかった人が、仕事で満足感を得られていないかというと、必ずしもそうではない。それを転職と考えて頑張っている人もいます。
6) 「マインドフル」とは心が柔らかい状態。その特徴は
① 新しいカテゴリが創造できる
② 新しい情報を積極的に受けいれることができる
③ 多面的な視点から物事を認識できる
7) あるいはこんな言い方もできます。
① 新しいものに心が開かれています
② 特徴に敏感である
③ 状況の違いに敏感である
④ 漠然とではあっても、いろいろな視点がありうると意識している
⑤ 「いま」を大切にしている

最後はかなりNLP的なところで落ち着いていますが、なかなか楽しめる本でした。

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